
【イベントレポート】MOps不在でもデータを使いこなせるか? リードを渡して終わりから脱却するデータ活用×IS連携の最適解
BtoB Marketing Academy Conference 2025「リード獲得の選択と集中」で視聴者に好評だったセッションのイベントレポートをお送りします!
本記事では「MOps不在でもデータ活用やIS連携をするには?」をテーマに、SALES ROBOTICS社の取締役として、そしてSalesforceユーザー会インサイドセールス分科会会長を務めたことのあるインサイドセールスのキーパーソンである冨田氏によるセッションの内容を、当日モデレーターを担当したferret Oneマーケティング部マネージャー見山よりお届けします。
お好きな時間に視聴いただけるオンデマンド配信も行っています。お申込みを逃してしまったけどこれから見たいという方はぜひお気軽にご視聴ください!
登壇者プロフィール

SALES ROBOTICS株式会社 取締役CSO
冨田 貴徳 氏
インサイドセールス支援・SALES ROBOTICSの取締役。
28歳ファーストキャリアをGMOグループからスタート。複数のSaaS企業を経て、2021年、SALES ROBOTICSにCMOとして参画。マーケティング組織をゼロから立ち上げる。
ブランディング・マーケティング・事業開発の管掌役員。
Salesforceユーザー会、インサイドセールス分科会、会長(2023)
Inside Sales Conference運営・企画を統括。
まず本編の前に...


セッションの本編に入る前に、「専属のMOpsはいるか」と視聴者へ反応を求めたところ、2つ目の"兼務"と3つ目の"取り組みはできていない"が大半でした。なかなか専任を置ける企業は多くないですよね。
差別化の難しい事業と、3名体制のマーケ
まずは前提、冨田氏が語る事業環境は、決して楽観的なものではありませんでした。
「当社の事業は、主にBPOと呼ばれる営業支援やコールセンターの事業を行っている会社でございます」
創業21期目(登壇時点)のミドルステージ企業ですが、市場はコモディティ化しており、選ぶ側は「何を持って選べばいいかもはや分からない」状況。
その中で、マーケティングチームはわずか3名。
「常に実行リソースが不足している中で、パラレルに施策を進めているような環境であるという」
「なので、人数が潤沢でもないですし、予算も潤沢でもないです。限られた資源の中でどうやりくりするかというのが求められているといったようなマーケティングチームです」
BPOなどのいわゆる受託系の事業では「カタログスペックによる差別化が難しい」「マーケ人数も多くない」という共通した課題が共有されました。
スコアリングの実態と、営業現場の課題
MOpsの業務の中でよく言われるようなMarketing Automationツール(以下、MA)の運用やスコアリングについて、元々MAベンダーに在籍していた経験もある冨田氏に、冒頭から伺っていきます。
「まずスコアリング自体の本質的な目的は、営業活動の選択と集中、つまり営業生産性を上げるためだと考えます。」
「しかし、現実には単純に営業が電話かける相手の目印を探しているっていうところに過ぎないっていうのが、実情なのでは?というふうにも思っていて。
なので、生産性が上がってなければ悪、生産性が上がっているのであれば正しいんじゃないでしょうか?」

弊社も4年前ぐらいは、MAで結構ゴリゴリにスコアリングを設計していました。
設計する側は設計する側で、仮説を立てて細かく条件分岐で設計したものの、実際の運用みたいなところでは全然成果につながらなかった経験があります。ただただその設計をした時間を溶かして終わったという...
なので弊社では積み上げのスコアではなく、タイミングを測る行動検知という機能を使ってホットリードの抽出を行うようにしました。
営業現場でよくある3つの問題
冨田氏が提示した営業現場でよくある3つの問題――
「当社が実際に抱えている問題でもありますが、この3つのケースは、多くの企業様に当てはまる問題じゃないでしょうか?」

- ケース1:膨大な量の無作為リード件数の増加
- ケース2:”今すぐ”顧客じゃない商談パス件数の増加
- ケース3:プランニングや提案工数の増加
挙げられた営業現場の問題を踏まえると、「リードの質が低い」と営業に言われる背景には「リードの量と質の議論が不足している」「インサイドセールスのフォロー工数が不足している」などといった課題が潜んでいるのかもしれません。
「リードの質が低いから、リードの質をあげよう」「スコアリングで測ろう」といった考えや対策自体は間違っていないですが、短絡的な考えではなく、事象の背景や営業に対する理解がヒントになりそうですね。
ただこのリードの質、営業との連携はBtoBマーケターにとって、永遠に立ちはだかる壁かと思いますが、後のパートに続いていきます。
コミュニケーションの課題:売り手と買い手のすれ違い
「資料ダウンロードしたら電話されるのってウザいんですよ」
冨田氏の率直すぎる発言に、ざわつきます。
「でも、勘違いしないでほしいのは、電話がウザいんじゃないんです。あくまでチャネルは、無機質なものじゃないですか。悪じゃないんですよ、チャネルは。」
というと...?
「コミュニケーションが問題なんです、なので人(組織)の問題です」
ズバリ切り込む冨田氏の言葉に対して、ドキッとした方もいれば、同意の方とそれぞれ反応は分かれたのではないでしょうか。
冨田氏はコミュニケーションの課題について、次のように整理をしました。

「私は仕事柄、インサイドセールスの方からのお電話やメールは、受けたり、多く拝見するようにしています。その中でいいものにはご返信したり、ご面談もお受けするっていう風にしています。
実体験からも、やっぱりいいものはいい・悪いものは悪いって、かなり顕著になってきているので、この体験のエラーを解除するだけでかなり効率が上がるなと思います」
ここで一つ質問があがります。
Q. | ホワイトペーパーのDLフォームをなくして、どなたでもご覧いただけるようにされているのは、顧客体験を優先してのことですか? |
|---|---|
A. | 教科書的な情報なので、それを見たいという方に対して、一生懸命お電話でお話をすることがインサイドセールスの仕事ではないという風に弊社では断定しただけですね。 結果的に、売上への影響はない。むしろ、次の段階へのポジティブなリアクションが増加しました。 |
ホワイトペーパーをリード獲得のエンジンとしている企業にとっては、もしかしたら辛辣な話かもしれません。
ただリソースが限られている中、顧客体験と成果(売上データ)を振り返って「やめてみる」ということは大事なポイントかもしれませんね。
まず疑うなら思い切って、やめてみる。思ったより影響が大きければ、すぐに戻す。
といった形で施策の選択と集中を行うことも必要かもしれません。
――ただ、冨田氏は手前のセッションを踏まえてこう続けます。
「正直言っていいですか。質の良いコンテンツや顧客体験、合理で言ったらやらなきゃいけない。でも大事だと思ってても本音はやりたくない、だと思うんですよ。」
3名ほどの少人数のマーケで実際に推進しようとするのは、非常に難しいと語る。
売上はあげないといけないし、売上に貢献せよと言われるし、フィールドセールスやISからはリードを求められ、質の高い商談を求められている。
この複雑で難解な問題を、どう乗り越えていくかを、シンプルに考えたいと常々思っている、と。
マーケと営業で異なる課題の捉え方
営業は日々商談をして、顧客の個別具体的な課題と向き合うことが当たり前。だからこそ、マーケターにとってはそれが「貴重で、特別な情報」である認識がない。と冨田氏は続ける。

SFAの受注理由などを見ても、「プロダクトのここが良かったから」「価格が安かったから」など営業の言葉に言い換えられてしまっている。無意識バイアスがかかって情報が歪められてしまうケースが多い。
だから「営業とマーケが連携をしよう」という安直な組織連携の話ではなく、顧客のインサイトを正しく捉える取り組み・仕組みがあるか、がよっぽど重要であると語る。
顧客の営業体験(CX)を売上・利益に近い場所からリデザインする
「多くのマーケターがおそらく、チャネルをコントロールしようとするんですが、違うんですよ。上流から見直すのではなく、逆です。営業の現場で何が起きているかを知ることが最も重要です」
では具体的にどう進めていけばいいのか?
①レベニュー全体の課題(一部抜粋)
- 営業組織の若年化・経験不足によってレベルアップが急務
- 商談獲得後の受注率が悪化の傾向
- IS/セールス組織が扱えるコンテンツが少ない など
こういった課題をベースに、顧客分析から示唆を得る必要性を説きます。
②顧客分析から得る示唆(一部抜粋)
- 顧客との接点回数が重要ではないか?
- 顧客はどんな情報を意思決定までに触れていたのか?
- 成約までのフォローアップに貢献する情報を特定できないか? など
そして、カスタマージャーニーではなく「セールスジャーニー」という考え方で、意思決定までのプロセスの具体的な把握=顧客の解像度を高め、営業資料やコンテンツ発信に活かしていくことが必要であると、冨田氏は述べます。
願望型ペルソナ・願望型ジャーニーを描いていないか?
具体的な進め方のパートでは、冨田氏が使った「願望型ペルソナ」「願望型ジャーニー」という言葉が、会場に刺さります。

「誤解のないように言いますけど、当社も同じでしたという前提で聞いてくださいね」
前置きしたうえで――
「ペルソナとかカスタマージャーニーって、めちゃくちゃマーケターの妄想で作ってませんか?」
これはそれこそ、SFAに記載された受注理由や、営業の言葉で語られた顧客の声をそのまま盲目的に信じ込んで、抽象度の高い状態かつ、自社だからこそ持ってしまうバイアスが先行してしまうため、妄想でそれっぽく描けてしまうのかもしれませんね。
ぜひ進め方の全体像については本編をご覧いただきたいのですが、その中でも特徴的だったのが、インタビューの実施。

データはあくまで仮説や傾向を掴むためのものとし、実際に何が起きたか、なぜ起きたかは現場にしかない、と冨田氏は語ります。
妄想という名の仮説を、検証して具体・現実に落とし込めているか?という点。当たり前に見えて、実はあまりできてる会社さんはそう多くないのではないでしょうか。

難しく感じる方もいらっしゃったかもしれませんが、実は妄想より簡単かもしれません。
弊社も、実在する受注顧客や既存顧客を選出して、ご協力のもとインタビューさせていただいた上で、ペルソナに反映しています。
とはいえ、実際にインタビューを含む一連のプロセスを、少数マーケでどれくらいの時間をかければできるのか?という点で疑問が湧きました。
Q. | この進め方で、大体どれくらいの期間があれば出来るんでしょうか? |
|---|---|
A. | おそらく4〜5ヶ月かかると思います。 ただ、100点にすること不可能という前提の上で、最初の時点ではまず80点目指していくことが大事です。 |
これを「4~5ヶ月か...」と捉えてしまう方もいらっしゃるかもしれません。
でも逆に言えば、4~5ヶ月ちゃんと取り組めばできるという捉え方で本質に立ち返るための取り組みを始めることが良さそうですね。
まとめ:ツールよりも、対話を変えよう
まずはマーケターと営業が見ている景色の違いの理解から
マーケと営業の連携問題は、本カンファレンスのセッションでも各所取り上げられていました。対して冨田氏は、改めて先ほどのスライドでこう述べます。

「わかります?この組織ごとの景色の違い。この景色の違いで会話してるんですよ、組織同士って。」
確かに「営業がなかなか思うような回答をしてくれない」などの悩みがイベント中もありました。
個別具体に対峙する営業と、それを抽象化して施策を進めるマーケで、捉え方自体に差があることはこのような図で見てみるとわかりやすいですね。
「営業の方々って、マーケの理論とかフレームワークとかの話をされると忙しいし、正直めんどくさいって思うところもあると思うんです。だからマーケターに○○じゃないですか?って問われたら、ちょっと違うけどなと思いつつも、じゃあそれでって同意してくれるんですよ。」
ただこれは営業・マーケどちらかが悪いといったことではなく、それぞれの役割と日々の業務の中で生まれる捉え方の違いです。
なのでシンプルに「共通言語・共通認識を作って、会話をして、すり合わせる」ということが大事なんです。
そして、インタビューを代表する各取り組みのような仕組みで一次情報を起点に解消していくこと
が重要ですね。
MOps不在の少数マーケがやるべきこととは
セッションの最後、サマリーでまとめられました。

MOpsがいないからデータが...の前に、レベニュー全体の課題を捉えて動けているか?
データ活用や分析の前に、マーケター自身が現場の一次情報に触れて解像度を高められているか?
非常に本質的な、でも理想で終わらせるのではなく現実的にどう推進していくと良いかの具体が問われた、満足度の高いセッションで締めくくられました。
編集後記

「正直言っていいですか。合理で言ったら、やらなきゃいけない。でも大事だとわかっていても本音は、やりたくない、なんですよ」
この冨田氏の言葉に、どれだけ多くの人が救われたでしょうか。
MOps不在、リソース不足、複雑な施策――BtoBマーケティングの現場は、常に「やるべきこと」と「できること」のギャップに苦しんでいます。そんな中で、SALES ROBOTICSのような限られたリソースで成果を出している企業のトップが、「本音は大変そうでやりたくない」と言ってくれること。その正直さが、このセッションを特別なものにしていました。
実際の失敗談から述べられた「願望型ペルソナ」「願望型ジャーニー」という言葉も印象的でした。失敗を共有し、そこから学んだことを伝える――この姿勢こそが、本カンファレンスでお届けしたかった真のナレッジシェアだと感じました。
そして何より、「コミュニケーションしろ」というシンプルな結論。ツールをいじるよりも、顧客と話し、営業と話す。当たり前のようで、忙しさの中で忘れがちなこの基本が、MOps不在でも成果を出すための最適解なのだと、改めて気づかされたセッションでした。
「会話がズレます、100%。見えている課題が違うから」
この言葉を胸に、明日からまた、コミュニケーションを取りに行こう。そう思わせてくれる、あたたかくも実践的なセッションでした。
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