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AIに思考を渡すな──起業したマーケターが語る、顧客理解とキャリアの話

仕事終わりのBtoBマーケターが、日々の気づきやトピックをゆるっとお届けするポッドキャスト番組「しごおわ!ゆるっと12分ラジオ」。

今回は、株式会社AiKAGI代表・「最高の打ち手が見つかるマーケティングの実践ガイド」著者の富家 翔平さんをお呼びして、2回にわたってお話をお伺いしています。

B2Bマーケティング支援・研修・講師業・ライティングと、複数の仕事を掛け持ちしながら起業して半年の現状を赤裸々に話してくれました。

AIに頼りすぎたら「自分で何も考えられなくなった」話。BtoCから取り入れられるBtoBマーケティングの話。など、普段はあまり聞けないお話をたくさん伺っています!

「砂利を泥水で飲む」起業半年のリアル

「貧乏暇なし。砂利を泥水でする生活ですよ」
──本人の言葉をそのまま借りるなら、こんな感じです。

第一回のep30.の内容です。

富家さんのキャリアは、通販系B2Cマーケター→広告代理店→B2Bマーケ歴10年(大企業からスタートアップまで)という色々な環境でマーケをやってきている方です。

著書も出し、ウェビナー登壇の引きも多い。そんな人でも起業直後はキャッシュフローを見ながら「枕を涙と寝汗でびっしょり」にする日々があるのか、と妙なリアルさが伝わってきます。

「AIで全部やらせてたら、自分で何も考えられなくなった」

このエピソードで一番刺さったのが、AIに対する正直な告白でした。

Claude・NotebookLMを使いこなし、Notionをクライアントの CRM として構築するくらいAI活用が得意なはずの富家さんが、あるとき気づいたことを正直にお話くださいました。

「登壇のスライドをAIに作らせてたら、ある日ピタッと手が止まって。前はあんなに自分で作れてたのに、何も考えられなくなってたんですよ」

「思考筋力」という言葉が出てきました。

運動をやめたら体力が落ちるのと同じで、AIに任せ続けることで「考える筋肉」が衰えていく感覚。

見山自身も「まったく同じ」と思わず即答してしまうほど、体感としてもあります。

自分で作っていれば「あの時のあの資料」として記憶に残るのに、AIに作らせると2〜3週間後に見返しても「こんなもの、書いてたっけ?」と初対面になってしまう、と。

「最終アウトプットは自分で作る」という決断

富家さんが今やっていること

  • 情報整理・調査はAIに任せる:NotebookLMやClaudeで情報をまとめる
  • 最終的なアウトプットは非効率でも自分で作る:スライドの構成も文章も、手を動かす

「2週間後に振り返っても覚えてる。それが自分の資産になってる感じがする」
という言葉は、AI時代の働き方における本質的な問いを突いています。

効率と、自分の中への蓄積。

その両立をどこで折り合いをつけるか──答えは人それぞれでも、「AIに渡しすぎてる感覚がある」ならば、一度立ち止まるきっかけになるかもしれません。

「コードが書けなくてもエンジニア」という自己認知の転換

面白かったのが、コンテキストエンジニアリングの話から出てきたエピソードです。

AIを使ったシステム設計や実装をしていた富家さんに、あるエンジニアさんがこう言ったそうです。

「富家さんはエンジニアですよ。コードを書くことがエンジニアじゃない。AIが登場したことで自然言語でコンピューターと会話できるようになった。だから誰でもエンジニアになれる。富家さんの設計思想や実装はまさにエンジニアそのものです」

この一言で富家さんの「自認」が変わった、という話。

マーケターではなく、エンジニアだと思うようにしたら、行動が変わった。

自分が何者かという認識が変わると、行動が変わる。これはBtoBマーケターにとっても同じかもしれません。

ゆるっとラジオの「本当のゆるさ」について

トーク自体はコンセプト通り、かなりゆるく進んでいくのですが、そのゆるさの中に、現役でバリバリ働いている人間の「生々しい悩み」が滲んでいる第一回収録でした。

  • 起業してみてわかる、経営者視点の違い
  • 限られたリソースの中で、広く薄くチャネル展開することに対して「それって意味あるんだっけ」という経験者ならではの問い
  • 「文字起こし社会」において、論理的飛躍さえ許されなくなる恐怖

BtoC広告運用から始まったキャリア

ここからは第二回のep31.の収録内容。

富家さんのキャリアの出発点は、あのジャパネットたかたです。

「MCになりたくて入ったんですけど、曲折あってマーケの部門に」

リスティング広告・アフィリエイト広告を使って家電を売る仕事。CPAがいくら、ROASが何パーセント、という数値の世界でキャリアがスタートしたそうです。

ただ、そこで徹底的に叩き込まれたことが今でも残っているとか。

「スペックじゃなくて、その商品でどう生活が変わるかを伝えなさい」

掃除機の吸引力ではなく、その掃除機を使うことで生まれる生活の変化。ものの向こうにある体験を語れ、というのがジャパネット流でした。このマインドが、後の富家さんがたどるBtoBマーケ時代にも続いています。

B2CとB2Bの「本質的な違い」

「自分がユーザーになれるか否か」

──これが富家さんの考えるB2CとB2Bの一番の違いです。

B2Cマーケター

  • 自分がユーザーになれる
  • 「自分だったらどう感じる?」から出発できる
  • ピュアな熱量で訴求できる

B2Bマーケター

  • 自分がユーザーになりにくい
  • ペルソナを分厚くしても「その人にはなれない」
  • 「なんとなく興味ない商材」になっていく構造がある

B2Bでいいアイデアが出ない時の正体は、突き詰めると「飽きてるか、興味ないか」のどちらかだ、と富家さんは言います。

悲しいけれど、解像度が足りていない時はたいていそこに行き着く、と。

ぐさっと刺さったBtoBマーケターも多いのではないでしょうか。

「B2Cの手法をB2Bに持ち込む」という発想

見山が最近試しているのが、デプスインタビューをB2B版で実践すること。

B2Cでは当たり前のN1インタビュー(特定の1人に深く聞く手法)を、B2Bでも意識的にやる。事例化のための取材ではなく、「契約直後にすぐヒアリング」。

  • そもそもどんなきっかけで検討を始めたか
  • どうやって弊社を知ったか
  • 意思決定の場面で誰が何を言ったか

富家さんからもう一歩進んだアイデアが出てきました。

「SaaSなどITツールであれば、会議室に来てもらうんじゃなくて、実際に使ってるところを画面共有で録画させてもらう」

B2Cでは自宅訪問して製品の使われ方を観察することがあるとのこと。

B2Bでも同じく、会議室でのよそ行きのインタビューより、実際の業務画面の方がリアルな実態が見える。

インタビューした時間の3倍で分析している企業もあるとか。このアプローチは面白い。

マーケターのキャリア論─掛け算と内発的動機

AI時代のB2Bマーケターのキャリアについて、富家さんの見立ては明快です。

マネージャーという選択肢が細くなっていく

AIによって1人のマネージャーが見られる人数が増える。つまり、マネージャーは半分でよくなる。組織は平たくなり、マネージャーの階層が薄くなる。

スペシャリストも安泰じゃない

広告代理店がAIに侵食されているように、特定スキルだけで生きるのは難しくなる。

残るのは「掛け算」と「やりたいこと」

  • マーケ × 営業
  • マーケ × コンテンツ制作
  • マーケ × 組織開発

スキルの掛け算で差別化する。かつ、その根っこに「これをやりたい」という内発的動機がある人が、AIが壁を取り払った今、もっとも恩恵を受けられると。

「AIに聞けばだいたい教えてくれるんですけど、本当にお前やりたいんか?ってなった時に実行力が伴うかが分岐点」

ジョブディスクリプションで定義された役割ではなく、「にじみ出る人」が重宝される時代になっていく、と。

「不可逆性の高い意思決定」をどれだけしてきたか

もう一つ、印象的だったのがキャリアの奥行きの話。

「大企業→スタートアップ→起業」という流れは、ただの転職に見えて「戻りにくい、チャレンジングな意思決定」の積み重ねだったと富家さんは言います。

年齢を重ねるほどに、それまでの不可逆性の高い選択が「奥行き」になって出てくる。

キャリアに迷った時、より不可逆性が高い方はどちらか?という問いが、補助線になると。

結局、チャレンジングな選択をしてきた人が良い経験を積み、最終的に収入や影響力にも帰ってきている。

──これは富家さん自身が複数の組織を経験した上での実感です。

BtoBマーケの本質に戻るために「早くみんな飽きてほしい」

エピソードの締めとなる問いとしてお伺いした、「今一番大事にしているマーケの視点は何ですか?」に対する答えが刺さりました。

「短期のROIや事業KPIを達成できない施策に、どれだけの予算ポートフォリオを割けるか」

KPIだけで施策を判断しないでほしい、というのが富家さんの訴えです。

リード数・商談数という分かりやすいKPIはもちろん大事。

でも、それだけを追い続けた結果、B2Bマーケティングという本来クリエイティブな仕事が、「決められたフォーマットの企画書を埋め、シミュレーション通りに実行するだけ」になってしまっていないか。

飽き飽きしているから、同じ施策を繰り返す。だから体験価値が上がらない。だから目標達成も遠のく。

早くみんな飽きてほしい。飽きて、違うことしようってなった時に、B2Bマーケの体験価値は上がると思う」

これはB2Bマーケターへの叱咤であり、エールでもあります。

わたし自身も、とても刺さった言葉でした。

まとめ

  • 思考筋力は使わなければ衰える:AIに全部任せる前に、最終アウトプットは自分の手で
  • 顧客理解の起点は「現場に行くこと」:会議室インタビューではなく、使われ方を見る
  • スキルの掛け算 + 内発的動機:AI時代のキャリア設計の核心
  • 不可逆性の高い選択が奥行きになる:迷った時の補助線として
  • KPIだけで施策を考えない:B2Bマーケはクリエイティブな仕事であるはず

BtoBマーケターとして「これまでBtoBマーケティングをやってきた自分」や「AIをうまく使えてる自分」を疑ってみること。

そして片肘張らず、でも飽きないで。その両立が、今のBtoBマーケターに求められているのかもしれません。


しごおわ!ラジオ ep30/31より

見山 悠妃(みやま ゆうき)
見山 悠妃(みやま ゆうき)
営業支援会社にて現場営業からマネージャーを経験。その後「1人マーケター」としてマーケティング部署を立ち上げ、サービスサイト制作・コンテンツ制作・ウェビナー施策の基盤を構築。 2021年にベーシックに入社し、BtoBマーケ特化SaaS「ferret One」のフィールドセールスを経てマーケティング部にてイベント企画を管掌。 その後インサイドセールス立ち上げ・管掌を行い、現在はマーケ・セールスを横断した戦略立案/企画/オペレーション設計ならびにWebマーケティング・インサイドセールスマネージャーを担う。 営業大好き、仕事大好きなマーケター。プライベートは一次の母として毎日奮闘中!

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登録番号 IA180169
適用規格 ISO/IEC 27001:2022 / JIS Q 27001:2023