アンカリング効果とは?マーケティングで使えるユーザー心理を掴むコツ


アンカリング効果は、BtoBマーケティングにおいても役立つ心理的手法のひとつです。今回は、アンカリング効果の活用法や、活用の際に注意すべき点を解説します。

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目次[非表示]

  1. 1.アンカリング効果とは?
  2. 2.アンカリング効果とフレーミング効果・プライミング効果との違い
  3. 3.BtoBマーケティングの成約プロセスでも活用されている
  4. 4.アンカリング効果をマーケティングで使う手順
  5. 5.アンカリング効果の注意点・トラブル防止のポイント
  6. 6.営業でアンカリング効果が活用できる場面
  7. 7.状況に合わせてアンカリング効果を活用しよう


アンカリング効果とは?

アンカリング効果とは、ある物事に対して、事前に数値などの情報を伝えることで、相手の潜在意識に判断の基準をつくる手法のことです。

アンカーは船の錨(いかり)を表す言葉で、船が海上で流されないようにするためのストッパーを指します。物事を判断するときも、船の錨のようなおもりを設けることで、判断に基準が生まれるのです。

たとえば、A社が100万円の予算でWebサイト制作を考えているとします。依頼業者の選定で、通常200万円以上かかるサイト制作を、期間限定価格の110万円で請け負ってくれる企業を見つけました。予算は10万円を超えています。しかし、依頼業者として検討する人が多いはずです。理由は、「通常200万円以上かかる」質の高いサービスを110万円で受けられるお得感にあります。

このような、事前に伝えられた情報から、そのあと提示された情報の質を判断する心の動きがアンカリング効果です。


アンカリング効果はマーケティングでも注目されている

アンカリング効果は、顧客のニーズを理解してサービスを提供するマーケティングにおいて、重要な考え方といえます。

自社サービスや商品の魅力・質の高さを、わかりやすく効果的にユーザーへ発信するために、非常に役立つ術だからです。

私たちは、物事を判断・評価するとき、無意識のうちに何かしらの基準を求めます。基準があることで物事の良し悪しの判断がしやすくなったり、周囲の人と認識を共有できるのです。

たとえば、ユーザーが新たな社内ツールの導入を考えている場合。ツール選定を任された社員は、導入決定権のある上司にツールの特徴を説明しなければなりません。

「通常10万円だけど3か月は20%OFF料金」などの情報があれば、商品が通常よりお得だと判断できます。上司とも「10万円が3か月20%OFF」という固定された共通認識を持てるのです。


ちなみに、アンカリングは、意味情報よりも数字情報のほうが効果を発揮しやすいといわれています。例として「天気予報」を挙げてみましょう。

【今日の天気は晴れ。25度と暖かな気候です。降水確率が80%と高いため、昼過ぎからじめじめとした湿気を強く感じるかもしれません。】

この際、下記のようになります。

  • 意味情報→晴れ。昼過ぎから強い湿気
  • 数字情報→25度。降水確率80%



意味情報は、湿気の感じかたや晴れの判断など、判断の仕方が人それぞれです。しかし、数字情報は「数字」という明確な判断基準が元となっています。そのため、認識のズレを防ぎやすく、効果も発揮されやすいのです。



アンカリング効果と行動経済学の関係性

1974年に心理学者のエイモス・トベルスキーとダニエル・カーネマンがおこなった、アンカリング効果を調べる心理学の実験があります。

実験内容は「65」と「10」の2箇所の数字どちらかで止まるように作られた、ルーレットを使用したアンケートです。ルーレットが止まる数字「65」と「10」の2つが、アンカーの役割を果たします。

「国連に加入しているアフリカ諸国の割合は、ルーレットが止まった数字より上か下か?」と質問しました。

その結果、以下のような結果になりました。

  • 「65」でルーレットが止まったグループの平均回答値は45%
  • 「10」でルーレットが止まったグループの平均回答値は25%

ルーレットの数字は質問のために用いただけで、質問の答えとなんの関連もありません。しかし、回答者は無意識のうちにアンカーであるルーレットの数字に影響を受けていました。

参照:Judgment under Uncertainty: Heuristics and Biases


アンカリングの設定に、多くの予算や手順は不要です。相手への心理的働きかけだけで、効果が見込みやすくなります。

そのため、行動経済学やマーケティング戦略でも非常に重要な手法のひとつと考えられているのです。


アンカリング効果とフレーミング効果・プライミング効果との違い

アンカリング効果に類似していて、マーケティングに役立つ心理的効果は他にも存在します。ここでは、アンカリング効果と間違われやすい2つの効果を紹介します。


フレーミング効果

フレーミング効果とは、同じ効果を発揮するものを表す「表現方法」を変化させることで、相手に与える印象を変化させる心理的効果です。

たとえば、1000万円の工場機械が300万円で購入できるとします。そのとき、

  • 1000万円の30%の値段で販売
  • 1000万円の70%OFFで販売

と表記されていたら、70%OFFのほうに魅力を感じる人が多いはずです。このように、同じ値段(効果)の表現方法を変化させる方法をフレーミング効果といいます。


▼アンカリング効果との違い

  • アンカリング効果→はじめに判断のための基準を提示する手法
  • フレーミング効果→同じ効果の表現方法を変える手法


プライミング効果

プライミング効果は、相手の無意識下に働きかけイメージのすり込みを行うことで、こちらがとってほしい行動に導く心理的効果を指します。

導かれた相手は、誰かに指示されたのでなく自分で決定したと感じているため、決断に対して満足や納得を得られる点が特徴です。

たとえば「資料請求でアンケートに協力してくれたユーザーは、1か月無料でサービスを受けられる」キャンペーンがあったとします。

アンケートに取り組むことでユーザーは、自社が持つ課題を自覚しつつ、無料でサービスを利用することで、改善効果を実感できます。また、サービスを経験することで、有料サービス導入への心理的ハードルも下がるはずです。

このような心の変化を生み、行動を導くための無意識への働きかけをプライミング効果といいます。



▼アンカリング効果との違い

  • アンカリング効果→判断基準の軸は、はじめに与えられた情報
  • プライミング効果→判断基準は、無意識のうちに刷り込まれていくイメージや情報


BtoBマーケティングの成約プロセスでも活用されている

アンカリング効果は、BtoBマーケティングの戦略でもさまざまな活用がされています。


Webサイト

自社企業の提供サービスが業界内の平均価格より安い場合、参考価格として業界内のサービス提供価格も表示するケースがあります。

参考価格と比較することで自社サービスのお得さを感じさせる効果こそ、アンカリング効果です。(表示例: 参考価格 10万円→自社価格 8万円)

ただし、商品やサービスの相場・定価の知識が豊富な見込みユーザーには、アンカリング効果が発揮されにくくなります。アンカリング効果に加えて、自社サービスの特徴などを伝えるなど、価格以上の付加価値をユーザーに発信する必要があるでしょう。


ホワイトペーパー

「目標の65%を上回る78%を達成!」など、目標としていた数値を先に提示して、目標達成率を際立たせるのもアンカリング効果です。

目標数値も記載することで、実際の達成数値の高さが際立つでしょう。「目標売上と実際の売上」、「目標期間と実際の達成期間」など、明確な数値を活用することで、ユーザーは商品・サービスの導入成果を想像しやすくなります。


セミナー・展示会

セミナーや展示会のように、ユーザーと直接のコミュニケーションを図る場面でも、アンカリングは役立ちます。

BtoBマーケティングの対象顧客は、非常にシビアです。具体的な効果・契約料・ランニングコストなど、さまざまな項目を複数の企業と比較して、サービスの導入を決定します。

「セットプランでサービス利用することで、単品プランの平均効果○%より□%高い、●●%の効果が出ている」など情報提示をすることで、ユーザーにサービスのお得感や効果の高さを感じてもらえるのです。


アンカリング効果をマーケティングで使う手順

アンカリング効果をマーケティングで活用するには、どのような手順が必要か「4つのステップ」にわけて紹介します。


1.他社商品などの情報を収集する

BtoBマーケティングをするとき欠かせないのが、提供する商品・サービスを扱っている競合他社や業界内の調査です。

自社以外のサービス価格を調べて、価格帯やサービス展開・他社のサービスの特徴など、多くのデータを集めましょう。

他社や業界内の理解を深めることは、自社サービスの魅力や差別化できる特徴を知るきっかけになります。

ポジショニングマップで情報を可視化して社内共有を図るなどすると、自社サービスに対する理解が社内全体で統一できるメリットも生まれるでしょう。


2.ターゲット層の商品購入までの行動を把握する

他社サービスの調査や自社との比較ができたら続けて行うのが、見込みユーザーの成約に至るまでの行動把握です。

SNSで情報を集める→企業のオウンドメディアをチェックする→メルマガ登録→セミナー(ウェビナー)や展示会に参加→見積もりをもらう→契約をする

上記のように、自社ユーザーが取るであろう行動を理解しましょう。

また、展示会などで実際に商品を手に取ってもらえる場合は、旧製品と新商品を並べることで新製品の品質向上を印象づけられます。ベーシックモデルとハイエンドモデルの比較で搭載機能の多さを際立たせる、などの工夫も効果的でしょう。

成約までのプロセスや、検討のときユーザーが考えることを深く掘り下げていくことで、自社商品・サービスの情報をより魅力的に発信できるのです。


3.自社の通常価格帯より「高価格の商品・サービス」をつくる

アンカリング効果には、基準となる比較対象が欠かせません。自社サービスのなかからアンカリング効果を生むには、ハイエンドモデルの商品・サービスによる価格差が活躍します。

初回は通常価格帯のものを選んだユーザーも、継続的なサービス利用が続くことで、ハイエンドモデルを契約してくれる可能性もあります。根強いユーザーを獲得するための一歩目の手段としてハイエンドモデルを比較対象とするのも有効でしょう。

また、「それぞれ単品ではなく、ほかの商品と組み合わせてセット購入・契約すると割引される」なども、お得感を演出できる手法です。自社商品・サービスの提供方法に合ったアンカリングを設定しましょう。


4.商品販売によって得られた効果を検証・改善を繰り返す

商品・サービスの契約までたどり着いたあと重要なのが、アンカリング効果がどれだけ発揮されたのか検証・改善を行うことです。

BtoBマーケティングでは「PDCAサイクル」を回し続けることで商品・サービスのブラッシュアップを図ります。PDCAは、それぞれPlan(計画)、Do(実行)、Check(評価)、Action(改善)の頭文字です。


ユーザーに対して提示した事前情報(アンカー)が、どれほどの影響を与えユーザーの行動に変化をもたらしたか、必ずデータを収集しましょう。

▼PDCAサイクルについては、下記の記事もぜひ参考にしてみてください。
Webマーケティングの効果的なPDCAサイクルとは?販促内容別の具体的な運用方法

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アンカリング効果の注意点・トラブル防止のポイント

アンカリング効果は、商品・サービスのお得感ら魅力をより効果的に伝えるための手法です。

しかし、活用の仕方を間違えるとトラブルを招く可能性もあります。ここでは、アンカリング効果を活用する際、注意すべき3つのポイントを紹介します。


「二重価格表示」は景品表示法違反に注意

マーケティングにおけるアンカリング効果では、価格表示など数字の比較を用いることが多いです。そのため、発生しやすいのが、消費者に誤解を与える価格表示です。

  • 同じ商品・サービスではないモノの価格を、同一商品のように表示して比較を図る
  • 比較価格に用いる金額を、実際と違った数値に設定したり、あいまいに表示する

などは、お得感を与えるための表示でも、「景品表示法違反」になるため注意が必要です。

参考:消費者庁の価格表示のガイドライン


アンカリング効果が発揮されるもの・されないものがある

アンカリング効果は、比較対象によって効果が発揮されにくい可能性があります。

たとえば、商品製造の材料や製造用機械などでは、効果が発揮されにくいです。言い換えると、「参考価格が明確な商品・サービス」ともいえます。

対して効果が発揮されやすいのは、コンサルティングやセミナー講師など、価格帯の幅が広いモノでしょう。参考価格をつけにくい商品・サービスは、提示されている金額が提供されるサービスに対して高いか安いかを判断しにくい傾向があるのです。

自社で提供している商品・サービスは、アンカリング効果が発揮されやすいか、されにくいかを確認しておくと、商品・サービスに合わせた情報表示が行えます。


アンカリング効果を常に狙うと効果が薄まる

アンカリング効果を狙うため、常に比較価格の表示をし続けていると、効果が発揮されにくくなるため注意が必要です。

たとえば、常にキャンペーン価格が記載されているECサイトでは、キャンペーン価格は特別な価格ではなくなります。いつも安くなっているから、そのECサイトではキャンペーン価格が通常の価格と認識されるのです。

その結果、商品購入に対するお得感を対して感じなくなってしまうでしょう。アンカリングは、使いどころを見極めて、タイミングよく活用することで効果を発揮するのです。


営業でアンカリング効果が活用できる場面

日々の営業活動のなかでも、アンカリング効果は活用できます。ここでは、誰でもすぐに取り組めるアンカリングの設定を、2つ紹介します。


専門分野を提示する

ユーザーとコミュニケーションを図るとき、心がけたいのが「自分の強みや細かな専門分野を伝えること」です。

最初の時点で、ユーザーに「この分野=○○さん」と認識をもってもらえると、ユーザーは高い信頼感を抱きながら営業トークを聞き入れてくれます。

すぐに契約につながらない場合も、今後ユーザーがその分野のサービス契約を考えているときに相談をしてくれるなど、将来的な見込みが生まれるのです。


見積書にアンカリング効果を盛り込む

ユーザーに見積書を提示するときに、アンカリングを活用する方法もあります。

値引きや割引を行うときは、見積書に「特別値引き」や「○○による割引」などの項目を設けます。本来の価格から何が引かれているか具体的な金額を表示することで、ユーザーにお得感を与えられます。

具体的な値引き価格の提示があることで、営業対応者は見積もりを検討するとき、上司への提案がしやすくなるのです。契約の判断を仰ぎやすく、契約まで円滑につながる可能性も高まるでしょう。


状況に合わせてアンカリング効果を活用しよう

アンカリング効果をうまく活用することで、ユーザーに自社商品・サービスの魅力や価格のお得さを感じてもらい、ポジティブな姿勢で契約をしてもらえます。

常にアンカリングを示すのではなく、ユーザーが最も惹かれる瞬間に行うアンカリングの情報の提供が、自社ユーザーの獲得につながります。


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