アンゾフのマトリクスとは?事業戦略を成功に導くフレームワーク


長年活躍して、顧客に貢献し続けている企業の数多くが、常に経営戦略を練り成長のための行動を起こしています。

代わり映えのないサービス・商品はいずれ顧客に飽きられてしまい、ユーザー離れが進みます。
市場が変わらなければ、顧客がいなくなってしまう可能性があります。

そのようなリスクを回避するために使われるのが「アンゾフのマトリクス」です。

今回は、アンゾフのマトリクスとはどのようなものか、考え方や実際の事例を用いて紹介します。

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目次[非表示]

  1. 1.アンゾフのマトリクスとは?
  2. 2.アンゾフのマトリクスに取り組むべき企業は?
  3. 3.アンゾフのマトリクスでわかる4つの成長の可能性
  4. 4.アンゾフのマトリクスの多角化戦略の4つの方向性
  5. 5.まとめ:アンゾフのマトリクスを活用し、事業の成長に繋げよう


アンゾフのマトリクスとは?


アンゾフのマトリクスとは、「戦略は組織に従う」という言葉を述べた経営学者イゴール・アンゾフが提唱した、経営戦略のフレームワークです。

「商品・サービス」と「市場」の軸と、「既存」か「新規」の軸を組み合わせた4つの方法で、事業が成長していくための戦略を立てます。

この戦略を実行することで、自社に与えられるメリット・デメリットの見極めや、どのようなリスクが潜んでいるかの確認など、起こりうる事象を把握しながら企業成長に挑戦することができます。


アンゾフのマトリクスに取り組むべき企業は?

「顧客のニーズはわかっているけど、売上に結びつかない」
「事業拡大をしたいけれど、最適な方法がわからない」
「現在取り組んでいる事業に対して、顧客がマンネリを感じている」


このような悩みを抱えている企業は、「アンゾフのマトリクス」に取り組むべき企業といえます。

長く第一線で活躍し続ける企業は、常に新たな企業戦略があります。顧客のニーズを読み、事業のビジネス展開を行うのです。

しかし、ビジネスの展開方法に悩みを抱えている企業は多くあります。状況変化に合わせて企業の方向性を見極め、戦略をとることは、経営を行うとき非常に重要になります。

自社が今後、どのように事業展開をしていくべきか、迷いが生じている企業こそ「アンゾフのマトリクス」に取り組むべきでしょう。


アンゾフのマトリクスでわかる4つの成長の可能性

アンゾフのマトリクスには、「提供するサービス」と「サービスを提供する市場」の組み合わせ方により、4つの種類に分けられます。

  • 市場浸透:既存サービス × 既存市場
  • 市場開拓:既存サービス × 新規市場
  • 製品開発:新規サービス × 既存市場
  • 多角化:新規サービス × 新規市場

それぞれに異なる特徴が存在しており、各企業の強みや今後の展望により、取るべき戦略も異なるのです。

自社が考えるべき企業の成長の可能性はどれか、具体的な企業事例とともに確認していきましょう。


市場浸透:既存サービス×既存市場

企業が現在持っている、「既存のサービス・商品」と「既存の市場」でさらなる成長を目指す戦略です。 

具体的な例を挙げると、現在すでに自社顧客である対象者の「契約プランを高い料金のものへ移行させる」、「契約頻度を高める」などでしょう。

4つの種類のなかで、最も手軽に取り組むことができる成長方法です。
リスクも低く、簡単なところから「アンゾフのマトリクス」に取り組みたい企業におすすめです。

【事例】サントリー

食品・飲料事業の有名大手企業「サントリー」の事例です。
数多くのヒット商品やロングセラー商品を生み出し続ける事業成長には、市場浸透が活かされています。

プレミアム感のある商品という印象づけを成功させている「ザ・プレミアムモルツ」と、「ピュアモルトウイスキー山崎」。現在は双方ともサントリーを代表するヒット商品です。


販売当時は、ビールの味は渋味のある辛口が王道でした。そのため、まろやかなコクが特徴の「ザ・プレミアムモルツビール」は、爆発的な売上をもたらす商品ではなかったのです。

しかし2005年、「ザ・プレミアムモルツビール」がモンドセレクション最高金賞を受賞。
賞を獲得したことで、高級感や贅沢さを全面に打ち出した販売方針をとります。
結果として、「特別な日に飲む贅沢なビール」としてヒット商品化させることに成功しました。


対してウイスキーは、海外で需要のある商品です。
しかし輸出費用や関税が高いぶん、販売価格も上がるデメリットがありました。
そこでビール同様、「ピュアモルトウイスキー山崎」もプレミアム感のあるウイスキーとして販売路線を打ち出します。

結果、海外で人気を集めることに成功。国内消費も増加する好循環作用を作り上げることに成功しました。

参考:https://www.shopowner-support.net/glossary/expanding-marketshare/penetration-strategy


市場開拓:既存サービス×新規市場

企業が「既に持っているサービス」を使って「新たな市場」を開拓する成長方法が「市場開拓」です。

海外進出のように「新たな地理で市場を広げる」考え方と、今まで通りの地理内であっても「顧客の幅を広げる」、2つの方向性の開拓方法があります。

「新たな地理で市場を広げる」パターンは、自動車や家電メーカーが国外へ向けて事業を展開するなどです。

一方「顧客の幅を広げる」パターンだと、アパレルメーカーがユニセックス商品の展開をする、女性向け美容メーカーが男性向け事業を開拓する、などが当てはまります。

事業成長させるには、専門的な知識やサービスの分析が必要となるため、企業でしっかりと戦略を組む必要があります。

【事例】ユニ・チャーム

おむつやサニタリー用品が有名な「ユニ・チャーム」。
積極的な海外進出が特徴の企業です。

中国を含むアジア圏への展開が中心でしたが、近年はアジア以外の諸国に向けての事業展開を進めています。

アジア圏以外への進出を行うきっかけは、今後訪れるであろう中国の少子化です。
子どもや人口の減少により、市場拡大が見込めないなどの理由から、視点を世界中に広げました。

既存商品の質の高さと専門性を強みとしながら、新規市場の開拓に成功した企業といえるでしょう。

参考:https://digimarl.com/syllabus/glossary-product-market-growth-matrix/
   https://omnimosouq.com/archives/5182
   https://www.finchjapan.co.jp/3332/


製品開発:新規サービス×既存市場

企業が「既に確立している市場」に対して、「新たな商品・サービスを提供」する成長方法が「製品開発」の考え方です。

自社の顧客(ファン)を掴み続けるには、新しい商品やサービスの開発が欠かせません。

例えば、「同じ食品で違う味の商品を販売する」企業などがこれに当てはまります。
「ビール」「インスタントラーメン」などたくさんの種類展開があるものをイメージするといいでしょう。

商品開発のために、施設を建てたり従業員を雇ったりするとコストがかかるため、「市場浸透」による成長と比較するとリスクが高まります。

ちなみに、「同じ製品の新商品」を開発するケースと別に、「既存の商品で使用している素材を活かした新商品」を開発する方法もあります。

開発の仕方の幅を広げることで、さらに独自性や自社の強みを活かす開発へつなげられるでしょう。

【事例】富士フイルム

カメラやデジタルカメラを販売する、精密化学メーカー「富士フイルム」は、時代の流れを先読みすることで新規サービスに成功した事例です。

カメラを扱う企業にとって、スマートフォンの普及が転換期といえます。
同業種の企業が苦戦を強いられる中、富士フイルムは「フィルムを扱う技術を、別分野である化粧品に取り入れる」ことで活路を見出します。

業界の今後の流れをきちんと把握して、事業をどのように展開していくかを考える必要性が明らかとなった事例です。

参考:https://www.is-assoc.co.jp/brandinglab/ansoff-matrix


多角化:新規サービス×新規市場

「商品・サービス」と「市場」どちらも新たなものを開拓する成長方法です。
新しい商品を新しい市場に向けて開発して、販売を試みます。

どちらにも今までのツテを活かせるものがないため、高いリスクが伴うでしょう。

その一方で自社の既存事業が先細りした際、企業を支える事業としてリスクを分散させられる可能性もあります。

開拓の難しさと、成功したときの大きなメリット両方を併せ持つ成長戦略が「多角化」なのです。

【事例】ソフトバンク

固定通信事業、携帯電話事業、球団運営など、幅広い事業展開をみせる「ソフトバンク」。
通信事業を軸として1994年に株式公開。その後、巨額買収を行うことで企業を成長させていきました。

2004年 固定通信事業に参入
2005年 福岡ダイエーホークス買収
2006年 携帯電話事業に参入
2013年 海外携帯電話事業に参入

国内の携帯電話事業は、大手企業や格安SIMなど事業が飽和状態です。
そのため、海外に目を向けてさらなる挑戦と成長を目指しているのです。

ソフトバンクが成長するために行う買収の資金は、負債からの調達がメインです。
金融機関の借入や、海外・個人向けの負債を活用することで、企業の成長に成功しました。

参考:https://www.finchjapan.co.jp/3332/


アンゾフのマトリクスの多角化戦略の4つの方向性

先程「アンゾフのマトリクス」で考えられる4つの成長の可能性を説明しました。
その中で「多角化」は、「新規サービスと新規市場」の組み合わせによる成長戦略です。
字の通り、多様な角度から成長を目指します。

ここでは、「多角化」戦略の種類4つを、具体的な事例とともに紹介します。


アンゾフのマトリクスの多角化①水平型多角化

同じ業界内で事業を拡大する成長戦略を「水平多角化」といいます。
例えば、以下のような例が挙げられます。

  • 自家用車をメインに作っていた自動車メーカーが、トラックの製造を行う。
  • スーツを生産していたメーカーが、普段着のブランドを立ち上げ生産を行う。

同じ分野で多角的な事業展開に取り組む例です。
すでに顧客を獲得している事業のため、効果が得られる可能性の高い戦略といえます。
「市場浸透」や「製品開発」に類似した「多角化」です。

【事例】ヤマハ

楽器メーカーとして世界的に有名な企業である「ヤマハ」。
ピアノやオルガンなど、鍵盤楽器の製造販売から事業を始めました。その後、ギターやトランペットなど、製造する楽器の種類を増やして、事業を拡大していきます。

さらなる展望は、電子楽器の製造を軸に事業成長をすること。電子楽器の半導体開発を手がけつつ、新たな事業展開を目指し、パソコン機器、自動車の内装部品にも挑戦しました。

しかし、事業展開に失敗。改めて事業の見直しを行い、本来の強みであった「楽器事業に集中する」方針を固めます。

ヤマハらしさを追求した結果辿り着いたのが、「楽器」「音響機器」「音楽に関する部品・装置」の3部門での業務展開です。

ボーカロイドなど、新たな成長戦略を繰り広げ続けるヤマハは「水平型多角化」の成功ケースでしょう。

参考:https://the-owner.jp/archives/5292


アンゾフのマトリクスの多角化②垂直型多角化

企業が提供している商品・サービスに必要となる「部品」の製造や、「流通・販売」を行うなど、事業を縦方向に広げる多角化戦略が「垂直型多角化」です。

例えば、アパレルメーカーが服の材料となる布や糸の調達をおこなったり、ボタンやチャックなどの部品製造に携わったりすることも、この戦略といえるでしょう。

【事例】トヨタ自動車

言わずと知れた世界的自動車メーカーの「トヨタ自動車」。
自動車製造に関わる部品に関わる事業展開を、系列メーカーで行っています。
代表的な子会社をご紹介しましょう。

豊田合成

車両内装の殺菌に活躍する、深紫外線発光ダイオード(LED)の開発をすすめている豊田合成。
カーシェア車両や防護服に殺菌技術を役立てたいと考えているそうです。

そのほか、さまざまな業種へ応用が効く可能性を感じ、展開方法の検討を進めています。

ジェイテクト

ステアリング装置の製造を行うジェイテクトは、技術を活用して「介護用歩行器」の開発に挑戦しています。
歩行器を安全に使ってもらえるように、車間距離を測る技術やブレーキ技術を取り入れました。
自動車メーカーだからこそ実現できる高い補助機能が、「介護歩行器」という新たな事業展開をもたらします。

それぞれのメーカーは、親会社である自動車メーカー(トヨタ)を支えながら、時代の流れに合わせた事業の成長を目指しているのです。
まさに、「垂直型多角化」の一例でしょう。


アンゾフのマトリクスの多角化③集中型多角化

一見するとつながりを感じない事業同士ですが、核となる技術やメインとなる顧客に強い関連性がある多角化を「集中型多角化」といいます。

【事例】富士フイルム

富士フイルムは、写真フィルムやカメラ事業で有名な企業ですが、「化粧品」事業も展開しています。

一見つながりがないような事業同士です。しかし、写真フィルムの主原料は「コラーゲン」、フィルムの劣化を防止するために用いられるのが「抗酸化技術」です。
コラーゲンは肌の弾力を保ち、抗酸化技術はアンチエイジングをもたらします。

このように、写真フィルムと肌の美容(化粧品)は強い関連性があったのです。

富士フイルムは、非常に高い技術力を持つ企業です。そのため、化粧品事業に参入する際は、技術を活かした高い機能性を武器にしました。

現在は化粧品事業の他にも、医療品事業・ヘルスケア事業・再生医療事業にも幅広く事業展開を行っています。
企業が元来の事業で確立した技術力が深い部分で結びつき、新たな事業への挑戦を成功させたケースといえそうです。

参考:https://www.is-assoc.co.jp/brandinglab/ansoff-matrix


アンゾフのマトリクスの多角化④集成型多角化

企業が提供する既存の商品・サービスや、既存の市場と関連性の薄い事業に取り組むことを「集成型多角化」といいます。
「コングロマリット型多角化」と呼ばれることもある多角化です。

企業と展開する事業の関連性が薄いことで、成果を上げる難易度が高く、失敗のリスクを負う可能性もあります。

その一方、企業経営の面から考えると幅広い分野で事業展開を行うことで、ひとつの事業が痛手を負った際も他の事業で補えるため、リスクの分散ができる面もあるでしょう。

【事例】ソニー

トランジスタラジオの製造販売から企業をスタートさせた「ソニー」。
オーディオ機器をはじめとした電機メーカーとして有名ですが、ゲームや音楽などの「エンタメ系のテクノロジー」、保険や銀行などの「金融事業」も扱っています。

ソニーは、1990年代頃から多角化経営の重要性を感じ、M&Aや資本提供で新たな業界へ展開する成長戦略(集成型多角化)をとっていました。

この経営戦略が企業を救ったのが、2008年に起こったリーマンショックの時です。
金融事業に比重を傾け過ぎていた当時、大きな痛手を背負いましたが、他の事業にも着手していたため倒産することはありませんでした。

また、ひとつの業界に依存し過ぎていた点を反省して、自社の強みを考え直すようになったのです。

創業当時からの技術力を活かしやすい、音楽、ゲーム、映画などの「テクノロジーの創造」に力を入れることで、業績回復を達成しました。

ひとつの事業が不振に陥っても、他の事業に力を注ぎ利益を生むことで、企業全体が成長していけるかたちはまさに「集成型多角化」の代表例といえるでしょう。

参考:https://the-owner.jp/archives/5292


まとめ:アンゾフのマトリクスを活用し、事業の成長に繋げよう

「アンゾフのマトリクス」における最大のメリットは、どんな企業でも自社に当てはめて成長戦略を模索できる点です。

小さな会社であっても、アイデア、自社分析、顧客のニーズを組み合わせることができれば事業の幅は広がります。

自社だからこそできること、強みは何か。挑戦すべき方向性は、現在の土台を大切にした成長か、全く違う新たな業界への参入か。
それらを洗い出すことが、事業成長を行う第一歩となるでしょう。



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